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「寿司とマヨネーズ ある愛の記録」 本年度最高の恋愛ノンフィクション
寿司とマヨネーズ ある愛の記録

水月 マヨ 著
定価:1,600円(本体価格)+税
ISBN:4-901784-13-7
2003年3月5日刊行

−内容紹介−
延べ10万人が訪れた、今はなき伝説のインターネットサイト『寿司とマヨネーズ』よりマヨ日記を収録。『支配と従属』のめくるめく官能世界。切なく哀しい明日なき純愛ドキュメント。

★巻末解説 室井佑月

「どうしてこんなにご主人様のことが好きなんだろう。3年半の時間は、恋を醒めさせるどころか、私の気持ちを雪だるまのようにふくれあがらせている」(本文より)


水月マヨ
東京都在住。編集者、主婦兼編集者をへて現在フリーライター。1996年から1999年まで、ご主人様との愛の日々を公開する。

〜著者からのひとこと〜
 読んだ友人に、「たとえ30回生まれ変わっても自分にはこんな経験はできない」と言われてしまった本です。
 確かにSMという形の恋愛は、普通とはいえないみたい。でも、男と女、恋愛は恋愛、根底に流れるものは同じじゃないのかな。
 ひとりの相手をどこまでも好きになって、その一瞬一瞬の気持ちを忘れてしまいたくない。それだけを考えながら書いていた長い日記です。どうぞ物語のように読んでください。


〜最近の書評から〜

見事なまでの支配と従属の実践日記
ネット時代の『O嬢の物語』

奇妙なこの本のタイトルをローマ字表記に変え、その頭文字を並べてみれば、寿司のSとマヨネーズのMが浮上する。つまり、SとM。そして文字通りのSMの世界が、マヨネーズであった著者の日記形式で紹介されている。期間は1996年11月から99年9月までの3年近くにおよび、その間はインターネット上で公開されていた。一部に熱烈な読者を獲得するほどの人気サイトだった。

「痛いのか?」
「いいえ・・・・・・」
「気持ちいいのか」
「・・・・・・はい」
「こんなことされて、喜んでるのか、おまえは」
「・・・・・・はい」
 ご主人様はしばらく私のお尻を足の親指で弄んでくださった。そして、抜いた指を私の口に突っ込んだ。ベトベトを一生懸命舐める。

 実体験にもとづく記述がこれでもかこれでもかと続く。それらは、著者が大学三年生のときに出会って興奮した、『O嬢の物語』に登場する性愛の場面を軽く凌いでいる。ステファン卿の屋敷で机に腹這いになって尻を突き出したり、血塗れになるまで鞭で打たれているO嬢が可愛く思えるほどに徹底して主人に従属する著者の日常は、倒錯の凄みで充満している。死すら恐れぬ構えで寿司に尽くすマヨネーズの記録である。
 こんなことをしていてよく仕事ができるものだと呆れるが、彼女はフリーランスライターという仕事をしっかりとこなしている。文章からは几帳面な性格すらうかがえる。相手の男も何よりも仕事を優先する忙しい毎日を送り、たまに彼女のアパートに現れて事におよぶ。男は様々なSMプレイはもとよりスカトロや複数プレイを要求しつつ、決して彼女の膣内では射精しないという完璧な傲慢ぶりを繰りひろげる。Sのご主人様は、快楽の果ての精液すら、Mの奴隷に易くは与えないらしい。
 そんな斯界の実態に驚きつつも、私は深い読後感を覚えた。理由は明快で、見事なまでの支配と従属の物語を読んだからだ。単なるエログロ路線を狙ったよくある告白本ではなく、確かな筆力に支えられた愛を乞う人の物語となっている。
 学生時代に『O嬢の物語』を旨にときめかせながらも、普通の結婚をした後に自信の性癖を自覚した著者。彼女は伝言ダイヤルを使って幾人かのS男性とプレイを重ねるうちに、心のさらなる深部に潜む欲求を発見したと書く。それは、精神的に支配してくれる「ご主人様」の獲得だった。いつでも「ひざまづきたくなる相手」を希求し、ほどなくして「自分だけが支配できる相手」を求めていた男と出会う。彼女にすれば奇跡的な出会いに違いなく、あっさりと離婚を果たし、自発的に「奴隷誓約書」まで作成して従属の生活を邁進していく。自分がどれほどに従属を遂行できているかを確認するように、いかなる変態プレイもこなせるよう努め、例えば、アナルにしか射精してもらえないのなら、自らアナルプラグを使って拡張していき、浣腸して彼の訪問を待つ始末。健気なまでの倒錯だが、彼女にすれば従属の徹底こをが愛の表現だから、決して手を抜くことはない。相手が満足するまですべてを己の責任として改善をはかるのだ。
あらためて、自由な恋愛が恋愛の自由をどこまで味わうことができるのか、と考えても、早計には答えはでない。常識の範疇で自由な恋愛を繰り返して一喜一憂してきた身には、彼女の愛の実践は苦行にさえ映る。だが少なくとも、この著者が恋愛の自由を味わったことはよくわかる。愛を乞う人の愛の実践日記は、だからネット時代の『O嬢の物語』になった。そして、愛とは立派な狂気であることを、今さらながら、過剰なまでに教えてくれる。

【評者】作家 長薗安浩(週刊朝日2003年5月2日−9日合併号より)


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